木曜日, 3月 22, 2018

アブストラクト・アートのススメ

みなさん、アブストラクトって知っていますか。 英語だとAbstractって書きます。
論文とかで概要を記すセクションをAbstractと呼んでいるやつがたまにありますがそっちではないです。絵のジャンルの方です。日本語では抽象画と言われます。




絵を描くといってもカジュアルな描き手の方たちが思い浮かべる絵というのは専ら人物や動物、あるいは人外などのものか、あるいは風景画ではないでしょうか?
そういったイラストとは正反対に、特に生命や物体など、存在そのものをコンセプトにしない絵をアブストラクトと僕は呼んでいます。
あまり陽の目を浴びることのないアブストラクトの良さをちょっと語ってみたいと思います。

目立たない?

TwitterやPixivなどで絵を見ていても、莫大なリアクションを獲得しているのはほとんどがテーマやキャラクターの決まったイラストです。 パッと見で「**の絵」って分かる絵とも言えます。
アブストラクトは「**に見えるけど@@にも見える」あるいは「何が描いてあるのか分からない」ものが殆どです。 イラストとは真逆の絵ジャンルになります。

ここでは絵に対して込める物やキャラクターやテーマを「コンセプト」と一括して書いていきたいと思います。

どうしてもコンセプトが掴めないと広めにくいのも事実です。
「**のイラストを描きました」と言って広めれば、その**が好きな人が集まるでしょうが、「よく分かんないもの描きました」と言っても、よく分からない・理解しにくいものを望んで求めにいく人はあまり集まりません。(アブストラクトを描いたと言えば集まりますが)
さらに、「**を描いたつもり」と思っても「@@に見える」と言うとキレられるご時世なので、とにかく決まった何かが絵の中に存在しないと受け入れにくそうだなあとは思っています。

抽象って何?

経験されたもののなかのある特性に注目してこれを取出し,ほかを捨てること。 
(コトバンク - https://kotobank.jp/word/抽象-97265)
ざっくり言うと「ざっくり言う」ということです。
絵的に言うと、風景を見た時に「木、砂、水、雲」「森、海、空」ではなく「緑、青」くらいざっくり捉えることが抽象なんだと思います。

ちなみに抽象画については僕自身もあまり分かっていません。
多分このことを正確に書こうとするとウン百年前の画家たちの話や絵画技術の話を調べて書かなきゃいけないので面倒ですし、現代のアブストラクトと昔のそれはかなり違うと思うので一緒くたにすべきではないと思うからです。

見る人の脳内でやっと完成するもの

アブストラクトを描く時、あまり深いコンセプトを指定しません。
「何となく線を引いたら鳥の翼っぽくなったので頭っぽい部位を足してタイトルに鳥とつけた」とか「何となく図形作って色いじってたら良い色になってそれが気に入って完成まで持ち込んだけど結局何を描いたのか自分でも分からん」「死をテーマにして描き始めたのに何もかも明るすぎて真逆の生をテーマにせざるを得なくなった」みたいなのが個人的によくあるからです。
生まれたコンセプトは描いている途中で芽生えたから添えたのであって、根底にどういうコンセプトを持つのかは最終的に見る人(自分含む)によって変わります。

ハイリスク・ノーリターンからノーリスク・ハイリターンへ

イラストを描いていて「@@に似てる」と言われるとムカつくのは僕もあります。 それは自分の中で「**を描いている」と決めて進めているからです。 進路を寸断されると困ったり怒ったりするのは当然です。
描き手は作者なのでコンセプトが何なのかを決めつける権利は当然あります。でもその権利をわざわざ使わなくてもいいんです。それがアブストラクトです。
逆にアブストラクトで決めつけを行ったら意図しない解釈の波に溺れて死んでしまうでしょうし、見る側も「こう捉えたらダメなの?」と、すんなり楽しめないと思います。

決めつけを行わずに絵を描くと「@@に見える」と言われても「君はそう見えるんだな」としか思わなくなります(そう返すと大体「違うの?」って驚かれます)。 むしろ、人や動物など現実に存在するものにしか当てはめられない(未知で架空の何かだという発想がない)人に直面すると「もっと広い世界があるのになあ」とションボリしてしまうくらいです。

そして「ここのパーツが@@に見えた」などの動機を聞くと、人が絵を見る時にどういう点に着目して、どこをどんな物と解釈するのか などの法則が分かるようになります。 これはジャンル問わず構図作りや誤解防止、あるいは相手のプロファイリングに役立つと思います。

表彰台を階段のように登り降りする奴

見る人の脳内でやっと完成するのがアブストラクトですから、当然評価をする人と評価をしない人が現れます。 ある人が10点満点をつけても、ある人は2点しかつけないような事だって起きうるわけです。
逆に高い評価を多く受けているアブストラクトを見ても「特にピンとこないな...」って思ってしまう時もたまにあります。 それも多分許してくれるでしょう。アブストラクトですから。

物をコンセプトにした際は構図や構造の正解率(いわゆる画力や技術力)が高評価に繋がることがよくありますが、そういった正解そのものが存在しない場合、高評価をする人としない人がすごくまばらになります。
(もちろん特定の画材に絞った場合(水彩や油彩/ChaoticaやC4Dなど)、それらのコツを習得して技術力を上げれば評価は上がるかもしれません)

そうして個人に委ね続ける状態に置かれると、その絵の価値や魅力などは一概に順位として決めつけることができなくなります。 あの人にとっては1位、この人にとっては40位...みたいに浮いて揺れ続けることになります。

その前に「自分がこういうのが良いと思ったから描いた」という衝動のままに描かれるのがアブストラクトなので、たいてい自分の中では常に1位です。 後から出来た絵に技術力の問題で順位を越されることはありますが、その際は新しい絵が1位になるので特に問題ありません。
また、必ず自分の腕が自分の望んだ結果を出すとは限らないので、あまり好みでない自作絵に対して自分で低評価をつけてもいいわけです。 作者の評価さえもグラつかせるのがアブストラクトだからです。

振れ幅が大きいと「良いって言ってくれる人もいるし言ってくれない人もいるんだなあ」くらい斜に構えることができますし、「今は誰も良いって言ってくれないけどいつか現れるでしょ」くらいテキトーな精神でいることができます。

この描き手と見る側にとっての気軽さはコンセプトのある絵では感じにくいと思います。
美しいと思ったものをひたすら集めて花束のようにするだけ

すべてを許さなくてはいけないが、すべてが許される絵

前述した通り、アブストラクトは何のコンセプトも土台にしない以上はどう解釈されても怒らない巨大な心の器が必要です。

しかし、実在する物をコンセプトにするとデッサンだの構図だのという点にど〜しても着目されがちで、結局絵の良さがその写実性や描き手の画力に帰結してしまいます。
また描く側としても、いちいち「構図が...」「デッサンおかしいな...」って悩むことになるので(それはそれで良いのですが)、神経をすり減らす事が少なからず起きます。

何のコンセプトも持たずにただ線や面を塗って、たまたま物っぽく見えた部分をフォーカスさせてタイトルをつければ、アブストラクトな絵として認識されます。 そうすると自ずと写実性なんて気にしなくなりますし、構造としておかしくてもアブストラクトとしては正常です。 まじまじと見られるのは描き手のセンスだけです。
写実性を指摘されても怒らなくていいんです。 アブストラクトってそういうものですから。
素直に「自分も変だと思うw」って開き直りましょう。 それさえ許されるのがアブストラクトですから。

気軽で何でもアリだからこそ可能なもの

自分の過去作「coSUMIc」の元絵(の一部)
実はアブストラクトを含む多くの「深く考えずに絵を描く行為」というのは芸術療法(アートセラピー)といって、心に溜まった怒りや悲しみなんかを吐き出す手法としても存在しています。
簡単な図形をいくつも描き殴ってみるとか、墨と水を紙にベチャベチャにしてみるとか...なんか傍から見れば気が狂ったような行為に見えるかもしれないけど、人の心というのは本来モンスターですから、気が狂ったように見えて当然なんです。 コンセプトを決めないからこそ、心が自由に動けてリフレッシュに繋がるわけですね。

もしかしたらそんな療法だったとも知らずにやってたという人もいるのではないでしょうか?
できた絵が自分の状態を教えてくれるので自己分析にも使えます。 マジです。

描いてみたくなったけど何をすればいい?

オススメなのはゼンタングルというジャンルの絵です。
アブストラクトじゃねえじゃん!って思われそうですが、個人的にはアブストラクトの中のひとつとしてゼンタングルがあると思っています。

描き方はチョ〜簡単です。 同じパーツをひとつ決めて、角度や大きさを変えながら描いて並べるだけ! これならペンでも鉛筆でもデジタルでもできて手軽なのです。 ちょっとした時間つぶしにもオススメ。

実はこの三角形や四角形の構造についてはフラクタルという無限回廊的な絵ジャンルも関与しています。 気になった人は調べてみてね。(ちなみにゼンタングルやフラクタルは集合体恐怖症の人を殴ってしまうので苦手な人は注意)
実際にアブストラクトと検索してもフラクタルのタグが同時についていることがザラですし、ゼンタングルも同様です。 でも何もかもを一概に弁別できないのがアブストラクトなので混在してても許されます。

最初にアブストラクトは「ざっくり言う」ものだと言いましたが、どの絵でもざっくりさせるのはコンセプトだけで、描き込みはガッチリ詰めても大丈夫です。 もういいやと思ったところでやめます。

ところでこの四角形のほう、二手目ではただの四角の重なりでしたが三手目のように詰め込むとバラのように見えてきませんか? 最初は特にコンセプトのない四角でも、後々にコンセプトが浮かんできたらそこで名付けてもいいのです。 肝心なのは最初は無であることです。


水彩や油彩やデジタルなど、面を塗りやすい画材の場合はとにかく適当に面を組み合わせるのがいいですね。 もちろん先ほどのゼンタングルで引いた線を塗ってみるのでもいいと思います。

左の色合いだと未就学児の絵みたいですが、右のようにグラデーションをつけると何となくエモくなりますね。 特にコンセプトは無くても、夕焼けや夜明けの空などの比較的綺麗に見える色のコンビを置いてみると難解な形でも何となく絵になります。 肝心なのは常に何となくで済ませることです。

特にサンプルには書いていませんが、こうしてできた謎図形の下あたりに英単語ひとつを小さめに大文字で書くと超アートっぽくなるのでオススメです。 日付も入れれば描いた日が分かって一石二鳥。
額に入れて壁に吊るせば即インテリアになります。

絵心は必要?

正直、アブストラクトに絵心というのは関与しないと思います。
まず物をリアルに描く必要がないので模写やデッサンがヘタクソでも問題ないからです。
(ただ最後に紹介する作家の作品のようにリアリティと非現実性を兼ね備えるCGの場合、こういう知識は必要になります)
知識を一定量積む必要はなく「好き」を見つければ見つけるほど良作ができる印象があります。

どちらかというと描き慣れのほうが必要だとは思いますが、確固とした正解が存在しないぶん「昔描いてたやつのほうが圧倒的に好き」みたいなことも起きます。 本当に何が正解なのかは個人にしか分からないんです。

アブストラクト作家n銃士を連れてきたよ

あまりにも虚無すぎると何も浮かばない...というのも勿論あります。
どういうスタイルが最も好きで描きやすいかは人によるので、色んなアブストラクトを見て「勢いがあるといい」「尖ってるといい」「色合いが涼しいといい」などなど、ピンとくる特徴を見つけるといいと思います。
というわけで.con°Fが推しているアブストラクトの描き手の方々を紹介してみます。

色合いが現実寄りで勢いがあります。打たれたことのない風と波を体験しよう。
3D作品が基本。SFチックで静かに稼動音をたたえるメカが多いけどアブストラクトみが高いです。個人的に。
フラクタルが多め。色合いがキツくなくて集合体にギョッとするということが少ないですね。
イルミネーションのように光る万華鏡を覗く体験がここにあります。
比較的コンセプトが濃いイラストの作者ですが作風がアブストラクト。見たら分かると思います。
壁紙の模様のように平面的だけど、配色でアート性を出しているような気がします。
3Dフラクタルが中心です。地球上のどこかにこういう景色があるのではと思ってしまうけど無いんだなあ実は...。
人や動物をモチーフにしてるものからそうでないものまで色々を全部アブストラクトに砕き落としている印象。
現実には存在しないけど見たら絶対「なんかカッコイイ」って思うオブジェクトのカタマリ。
手描きでアナログライクなアブストラクトが多いです。コンセプトは濃いめだと思います。
絶対こういう景色が地球上のどこかに(以下略)...遠近がすごく臨場感を出しています。まさに臨場です。
いわゆる偉人。聞かれたことはないけど好きな画家は?って聞かれたら絶対彼の名前を出したい。

dAのアナログアブストラクト欄 https://www.deviantart.com/traditional/whats-hot/?q=Abstract&offset=0
案外デジタル作品が多かったのでペンや絵の具で参考にしたい時はこちら。

アブストラクト(フラクタル)のつもりで描いたんじゃねえし!って思ったかもしれない作者の方には謹んでお詫び申し上げます。好きです。

おわり

すごいドヤ顔でイキり散らかしながら書いてしまいましたが...それくらいアブストラクトって普段のアートの量に比べて少数でマイナーな気がするんです。
コンセプトがなくても線しかなくても絵心がなくても細かく描く気がなくても、何となく「うんうんそれもまたアブストラクトだね」って許される、そんな自由で博愛的な絵ジャンルだと僕は思います。
最終的には「アブストラクト?ああいうやつでしょ、何て言ったらいいか分からないけどそういうやつ」ってなるくらいには広まってほしいですね。

0 件のコメント:

コメントを投稿